2019年6月8日土曜日

ぼくの ヰタ・セクスアリス



真あたらしいたましいが
また別の
真あたらしいたましいと連なって
戯れている

ふたつを介在する言葉は
その意味すら不確かなまま
無邪気に
投げだされている

夢か 現実か
最早 ぼくにはわからない

記憶をたどって思い出せるのは
結局のところ
きみと一緒に居た時間


  体育倉庫の暗がりで
  少年の青白い肌は
  ぼんやりと光っている

  土ぼこりと石灰の匂い

  半ズボンの裾からは
  他でもない
  きみの名前がのぞく


独占欲とは自覚のないまま

きみはぼくのノートにサインをした
ぼくはきみのノートにサインをした

それはどんな契約だったのか
最早 ふたりにもわからない

愛も恋も知らない 青の時代に
きみとぼくは見事 ふたりぼっち


  真夜中にしのびこんだプールで
  少年たちは水をかけあう
  針のような細い月だけが
  夜空に浮かんでいる

  星はない

  ふたりのはしゃぐ声だけが
  がらんとした宇宙に
  こだまする


少年の時間は ほんのわずか
最初から何もなかったかのように
きみとぼくは
他人のふりを決めこんでいる

どちらが言いだしたというわけでもないのに
それは厳重に守られる

ぼくは
投げだされたままの言葉を
ひとつひとつ
拾いあつめてはつなげようと試みた

いびつなそれは
薄いガラスでできている


  真昼の音楽室で
  少年たちは沈黙している
  その手に抱いた楽器は
  何の役目も果たさない

  漆黒のグランドピアノが
  ふたりの空間を隔てて
  やはり沈黙している


待っていなかったと云うと 嘘になる
大人になったきみと果たした 偶然の再会

空虚な 挨拶
空虚な 近況
空虚な 約束

面影を探して
きみを真っすぐ 見すえてみても
少年のきみはもう
どこにも居ないのだ


  真夜中の部屋
  ぼくは きみを葬る

  ほんの短い別れの手紙を書いて
  ゴミ箱に捨てる


それがぼくの初恋だったと気づいたのは
つい最近のことだ



2019年3月25日月曜日



ぼくの家
世界をつなぎとめるための
「おかえりなさい」
「ただいま」
毎日
くり返される生活
始まりと終わりの中継地点で
きみに触れる
あたたかい体温
幸福論
読みかけの本も
そのままで
退屈する暇さえなく
進む時間

今日は昨日のつづきで
明日につづく
それでも
ぼくに残されているのは
ほんのわずか
数えるに足る
明日と明日と明日に生きて
やがて死ぬ
だからたちまち今日は
きみを愛そう
明日終わってもいいように