2014年4月18日金曜日

ふたりの愛はレコードの溝に刻み込まれたまま、永遠に廻り続ける。


 加藤和彦のレコードを手に入れたのはいつ頃だったろう?香川県は丸亀市にある丸亀城公園の裏口に、中古レコードショップがあった頃だから、もう15年くらい前になるのかな?加藤和彦ソロ名義の「ヨーロッパ3部作」と呼ばれるLPを、3枚まとめて購入したように記憶している。
 90年代の終わり頃、DJカルチャーの台頭とともにレコードのリバイバルが興った。渋谷系というジャンルで一世を風靡していたアーティストたちは、銘々の仕様でポータブルプレイヤを限定発売した。流行に流されたくなかったぼくは、スタンダードなポータブルプレイヤを選んで買った。
 手始めに買ったレコードは、ピチカート・ファイヴやセルジュ・ゲーンスブールだった。これらは新品と復刻盤。すぐ後に、イブ・モンタンやアストラッド・ジルベルトも中古レコードで手に入れた。
 レコードがCDに切り替わり、すでに10年くらいは経っていただろうか?その頃になると、レコードを手放す人も多かったのだろう。欲しいレコードは、わりと苦労することなく手に入れることができた。
 そこで、加藤和彦である。レコードを買った時には、彼に関する知識をほとんど持っていなかった。奥様が、女流作詞家の安井かずみだったという程度。その頃にはすでに、安井かずみが臨終の床で書いた手記を読んでいたので、それを通してすこし知っているくらいだった。どんな音楽なのかも知らないのにレコードを買ってしまった理由は、単純にスリーヴデザインがかっこよかったから。特に、金子國義の絵を使ったLPは何か独特の趣があった。澁澤龍彦の世界を覗き見したみたいに、ドキドキしながらもどこか後ろめたい感じ。
 家に帰って、早速聴いた。どのレコードも、初めて針を置くあの瞬間はトクベツなのだ。スクラッチノイズと前奏の後、加藤和彦の独特な声がつぶやくように唄いだす。「Papa Hemingway(パパ・ヘミングウェイ)」「L'Opéra Fragile(うたかたのオペラ)」「Belle Excentrique(ベル・エキセントリック)」安井かずみの軽妙な詩とあいまって、ヨーロッパの街角に迷い込んでしまったかのよう。
 安井かずみが癌で亡くなり、加藤和彦も故人となってしばらく経った。これらのLPは、つい最近「CD付き書籍」という形で再発された。ぼくはもちろん、それも手に入れた。リマスタリングの施された音は、加藤和彦と安井かずみの愛を21世紀のデジタル技術で再現してくれている。けれどもやはり、彼らはもうこの世のどこにも居ないのだ。それならばせめて、今夜はレコードで聴こう。スクラッチノイズの向こうに、ふたりの愛が聴こえるはず。
 

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